『田園の詩』NO.54 「台風に想う」 (1996.9.24)


 台風は、九州の住民にとって、避けることのできない自然の脅威です。台風銀座と
いわれる沖縄県ほどではないものの、私の住む大分県にも、年に2〜3個は直接
やって来ます。

 数年に1個位しか来ない京都で育った女房は、よくやって来る台風には殊のほか
敏感です。つまりは゛こわがり゛なのです。天気図の下の方(南方海上)に発生した
その日から、勢力やコースを気にしては一喜一憂します。小学四年の次男も、母親
の影響でとても゛こわがり゛になってしまいました。

 私はといえば、昔からの慣れで、台風はあまり怖くはありませんでした。女房たち
からは、さぞかし頼もしい父親に見えたことでしょう。しかし、五年前に襲来した
≪19号台風≫以来、私も女房たちの仲間入りをしてしまいました。

 あの台風は猛烈でした。強い勢力を保ったままやって来ました。朝、明るくなって外
を見て、肝を潰しました。

 小屋は倒れ、瓦は飛び散り、やまの木々は半分位はなぎ倒されていたのです。当寺
の古い本堂や鐘楼が壊れなかったのが不思議なくらいでした。

 「こんな台風は初めちじゃ」と八十歳を越えたお爺さんがいうところをみると、百年
に一度有る無しの台風だったようです。

 この時以来、私にとっても台風は怖い存在となりました。反面、面白いもので、時折
来るちょっと大きな台風も、≪19号≫に比べたら小さく思えて、どこかに少し安心感を
抱くのです。(女房や子供たちにはそんな余裕はないようですが…)

 犬の散歩の途中、農家の人に「今年は稲の育ちがいいですネ」と話しかけると、
「いまは台風が一番心配、稲が倒れるから」という返事が必ずかえってきます。


     
     今年(平成20年)は、めずらしく台風の上陸がなかったので、
      稲は倒れることはありませんでした。彼岸花は、人工的に植えたものです。
      農家の人の粋な計らいです。    (08.9.20写)


 そういえば、≪二百十日・二百二十日≫の台風襲来の時季になりました。今のところ、
≪ひまわり五号≫の写真には台風は見当たりません。稲刈りが済むまで来ないで、
と願うのみです。

 反対に、東京には2〜3個、上陸すればよいのにと思います。――雨台風が。
                              (住職・筆工)

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